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Bad Faith

聖域。秘密。重大な結果。個人で開発したサイコホラー/ドラマビジュアルノベル。

2022年1月5日
シングルプレイヤー

みんなのBad Faithの評価・レビュー一覧

seika

seika Steam

2024年08月22日

Bad Faith へのレビュー
5

2024/08/22現在、対応言語は原文となる英語のみなので、英語でプレイした。

システム:一本道のノベルゲームなので、ひたすら、読むべし、読むべし、読むべし。なぜかデータセーブ先は潤沢に用意されている。ちょっと会話テキストのUIが独特な感じ。

グラフィック:立ち絵以外にもいわゆるスチルイラスト的なものも適宜容易されており、ストーリーに合わせて表現の幅を広めている。背景は写真素材を加工したものが用いられていた。シナリオ的に結構(グロ非グロに限らず)残酷な描写もあるのだけれど、グラフィックはかなり抑えた場面に留めている配慮がなされている。

その他:今年の5月からちまちま時間を割いて読み進めていたらなんと16時間以上かかって読むことになってしまったけれど、これは単純に私が日本語の文章でさえ読むのが遅いのに合わせ、外国語を読むスピードともなると輪をかけて遅くなるというのが大きな原因である。多分、ある程度すらすらと読める人なら長くても8時間もあれば普通に読み終えられると思います(他の方のプレイ時間見る限りだとさらに半分くらいは短縮できるのかも)。

あらすじ(※日本語訳が出ていないので、ネタバレにならない範囲でやや詳細に書いておきます):この世界のどこかに、島を利用して創られた「楽園(HEAVEN)」が存在する。そこでは少女たちがレディー・アマリスという初老くらいの女性を指導者に置いて共同生活をしている。楽園の外は狂気に満ちていて、ここはそれから護られた場所なのだと彼女たちは言い聞かせられ、この楽園に用意された機関のどこかに所属し、各々がそこにある目の前の自分の仕事をこなすことで毎日暮らしている。この閉鎖空間での生活は牧歌的に暮らしている限りは基本的には平和なものではあるものの、ひとたびその「規律とするもの」から外れれば待っているのは悲惨な追放劇なのだ。
主人公であるマグダはかつて道から外れた者として楽園から追放されそうになったものの、すんでのところで恩赦を受けた少女である。だが、それで何もかもが赦されたわけもなく、この閉鎖空間の中で永遠に温水に浸かるような「仲間外れ」として生きていて、数人の少女が僅かに親切に対応してくれるだけで、それ以上に改善する見込みはない。つまり生殺しの追放状態を日々味わわされているのである。
或る日、彼女は見慣れぬ建物を散策しているうちに奇妙な存在と接触することになるのだが、その散歩が再び彼女にさらなる苦痛を与える原因となるのだった。

大事なことなので言っておくと、ざっくばらんに言うと「いじめ」的な描写がかなり中心にある作品なので、そこには注意を要する人もいるかと思う。

+++

「Humans say that revenge is a dish best served cold. / But for me, that's too long a wait. I always like mine straight from the source, warm and raw.(人間たちは言うよね。復讐というのは冷えたものをお皿に盛りつけて食べるのが一番美味しいんだって。 / でも、わたしにとってはね、それじゃ待ち時間が長すぎるというものなんだ。わたしはいつだって自分の食事は産地から直送されたように温かくて生であるのが好きなんだよ。)」(作中より)

感想:まず、「思ったよりも読んでも読んでも終わらんがな」って感じだった。多く見積もっても8時間もあれば私でも読み終わるかと思っていたのでそこにびっくりした。本作は一本道のノベルゲーなのだけれども、現在自分が作品のどの辺りまで読み進められているのかみたいなヒントも一切示されないので、そういうのがパーセンテージででも分かるようになるとすごくありがたいなと、非英語圏から頑張って読んでた身としてはしみじみそう思った。

そういうシステム面はさておいて肝心の内容に話を移すと、本作、読んでいてずっと思ったのだけれど、ちょっと、粗削りさみたいなものが悪目立ちしっぱなしなところがあったように感じた。大雑把に話をまとめると「閉鎖空間の中の鬱屈さやそこで発生するいじめ問題」が中心にあると言えるもので、割と設定自体もそこまで凝ったものとか目新しいものでもないのだけれど、そこに関しては、多分、作者の体験を反映しているところもあるのか(多分、特に、「自分を定義するそのすべてのものを失う辛さ」と作中でも表現されている他者による迫害や否定が特にその辺で意識されているのだと思う)、真に迫る描写も随所にあったりもするし、全体的には読み応えのあるという意味で面白い作品だったのだけれど、構成・内容が微妙にずっと惜しいところをずっとなぞられてる感じだった。
タイトルの「Bad Faith」とは要は「不誠実、不正直、裏切り、悪意」を表現する語彙であると言える。『ランダムハウス英和大辞典』などはこの語彙の説明にさらに「(サルトル哲学で)自己欺瞞(ぎまん):ある行動[行為]が情況・事情によって決定されたとして,自らの自由に対して目をそむける責任回避[意識の逃避]」という説明も付けている。そして本作はまさにそれらの意味を踏破しまくった内容となっていて、楽園の名を騙る、地上に生み出した聖域に住まう者たちは、主人公含めどいつもこいつもそういう人たちしかいないのである。これは最後までたっぷりみっちりそのままである。誰もがいびつに自己愛を抱えたまま鬱屈して生きざるを得ない、またはそれを再生産するばかりとなっている場所、それがこの「楽園」なのである。彼女たちは真にお互いを見つめることも愛することもない。うわべの清らかさにただ固執してその体面を守っているだけであり、それゆえに他者を排するときには無情に振る舞うことを繰り返す。道徳的に正しく清廉潔白であることを謳いながらも垣間見えるのは人間の汚いところばかりというのが実情の「楽園」なのだ。例えば描写の中心人物となっている主人公に対しては彼女へのケアのなさが問題だったと思うから(そして逆に主人公も誰かのためにそれをしなかった)、誰もケアしない環境だったところ、臭い物には蓋というか存在をできるだけ無視すればいいやなところがこの楽園の偽善性というか嘘っぽさがよく表れていたとも思う。「思い遣ること、愛すること」が欠如した場所だったし、それが不可能な場所として設定されていたというか。そしてみんなその環境に安寧を見い出し続けてもいた救いようのなさ。
そしてこの「楽園追放」という内容に、実際の天使が絡んでもくるというところで面白みがあるのだけれど、正直ここも作品上ではあまりうまく生かせていなかったと思う。この天使はまさに自らの楽園(=天上世界)から人間たちに対して高慢もとい高邁な意識を持って「自ら」旅立つことでこの楽園に堕ちてきて、とことん地獄を味わうことになるという経緯があるのだけれど、そこと主人公の境遇とのクロスフュージョンがうまく整えられないまま話が最後まで行っていたところがあったというか。この天使が人間の暴力のせいで堕天使となり蛇の位置をも占め、さらには人に対して狂気を抱くようになるという流れになるのとかもすごく面白いのだけれど、本作ではとにかくうまくなじまないままだったというか、正直、こうしてスーパーナチュラルな話に持ち込むことが分かった時点でがっかりしてしまったところがある。最終的に主人公が行う復讐劇もファンタジーが強くなり過ぎて問題がはぐらかされてしまったというか。終盤でいよいよ[spoiler]実際に追放されてしまった主人公は牢獄に閉じ込められて、日々、楽園の外のことだとしていじめっ子たちによって陰惨なことをされ、衰弱死一歩手前まで追い詰められ、いよいよというところで精神的に繋がっていた天使ニルスと一つになることで人間を超えた力を持つ存在として生まれ直す[/spoiler]のだけれど、その直後から繰り広げられる復讐劇も、結局、彼女の問題を超えたものになってしまっていて、消化不良のまま話が進んでいた。[spoiler]人ならざる力を持って圧倒的強者となったからこそやり返す[/spoiler]みたいなことになってるのがどうにも気持ちが悪いというか、まあ、そこも含めて「Bad Faith」が意味するものなのかなとも思うのだけれど。あと、天使周りに関しての主人公の頭の悪さや、自分がとことん追い詰められるまで何もしないところなんかもなかなかなのも気にはなるけれど、そこもまあ、「Bad Faith」ということなのだろう。
復讐劇ターンもここに至って[spoiler]視点をいじめっ子側にやる[/spoiler]というのも納得がいかなかった。心底憎く思っている相手を我が手に掛けるというその心理描写を放棄したのがすごく残念に思えた。私の話をすると、私もマジで憎く思っている相手はいるけれど、自分の手を用いて相手に苦しみという反応をさせることすら受け入れられないなと日々思っているので(自分のふるまいに関係ないところで勝手にのたうちまわってひたすら苦しんでくれるとしたならば大変結構なのだが)、それをするくらいならどこか遠いところ、私と一切断絶した所でならいくらでも幸せになってくれと思っているので、猶更、そこに関して作者はどういう表現をするのかが読みたかった。多分、こういう復讐劇ターンはあるんだろうなと思って読んでいたので、そこを楽しみにしていたのもある。あと、思ったより復讐劇内容も(天使のやることも含め)あっさりしていたのにしたってそこも気になる。見逃すことになる、[spoiler]自分を告発した、友人だと思っていた少女[/spoiler]ともろくに言葉すら介さないままああなったのも気になる。本作は結局のところ、中心に据えたはずのものから逃げ続けていたのではないかと思う。

ただ、先も言った「Bad Faith」の表すところのものはどの登場人物も巧みに描き続けていたと思う。これは天使にしたってそうである。登場人物たちはみな、自らに端を発する根本からは目を逸らし続けている。そして地獄を演じ続けている。それでいて自分たちの楽園を築こうとしている。そのやるせなさは(作品をひとまず横に置いて考えてみたときに)しみじみ感じられるようになっている。エピローグの少女にしても決して優しい少女などではなく、彼女は何もかもを見捨ててわが身可愛さのふるまいしかしていないことがきれいな言葉の端々にもよくよく読み取れるようになっていたりするので、読んでいるこちらはその気持ちは分かってもひたすら辟易としたまま最後の文字まで読むことにもなるのである。この点は本当に読んでいてすごいと思った。彼女は、ある意味、楽園を自ら出て行ったときの天使が抱えていた驕りに近いかもしれないものを持ちながら[spoiler]楽園を後に[/spoiler]するのである。とにかく救いがない。
本作では主人公が[spoiler]恋に近い意識を持つ少女[/spoiler]も居るのだけれど、彼女に関しても、結局、私たちの目から見るとやはりここもまた「Bad Faith」な少女でしかなかったのだということしかうかがい知れないまま、やはり対話はなく話が終わるのだけど、主人公がそもそも本当に彼女を思い遣っているわけではないとかすれ違ってしまっている対応はしていたとしても、なかなか他の登場人物よりもぞっとすることをしていたので、ここもひたすら後味が悪くなっていた。

[spoiler]「あなたがしたのはレディー・アマリスの言うことに従って、無差別に人を罰することだけだった。」[/spoiler]
[spoiler]「〔私は〕そもそも人間というものを理解しない怪物を信じてしまったのだ。」[/spoiler]
[spoiler]「あのひとはかつては親切だったかもしれない。思い遣ろうとしたのかもしれない。でも、私の直感は正しかったのだと思う。あのひとの苦しみはあのひとを狂わせた。あのひとは地下の暗い牢獄から解き放たれるのを待っている怪物だったのだ。」[/spoiler]
というところが本作の肝要且つ象徴的なところなのだと思う。幸せを志向する人間たちがそれなのに醸成してしまったディストピアと、人と人とが交流することの難しさ、どうしても出てくる排他意識、そしてそれぞれににじみ出てくる歪み。

作中の学校的な閉鎖空間特有の息苦しさの描写はだいぶ巧みに描写されていて、マジでそういうのが無理過ぎて爆発していた身としては、ひえーって感じであった。少女たちの自己中心さも仄かな表面的な優しさもかなり生々しい。自らのコミュニティーの安全のためにいくらでも地獄を作れるところとかにしたってそうである。
特にそういう意味でなかなかいい仕事をしていたのがネームド以外の有象無象の少女たちだったとも思う。主人公が[spoiler]迫害される会議の場面での残酷さなんかは[/spoiler]特にぴか一の描写だった。あの吊るし上げ具合、各々の鬱憤が与えられた正義の名の下に牙を剥く感じ。主人公だって自分がその立場にあれたならばその安寧にどっかり座っていただろうことも想像がつくやるせなさ。あそこを読むだけでも本作はやってみることをオススメしたくもある。

ただやっぱり全体的にもう少しシナリオや構成が練られていたらなあと思うところが多かった。読んでいて歯がゆい箇所が多い。その読後感が読み進めるたびにずっと付き纏ってしまっていた。

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