






This Is the Zodiac Speaking
捕らえられなかったアメリカの連続殺人犯ゾディアックの世界的に有名な物語の事実に基づいた、ステルス モードと探偵モードを備えたストーリー主導の FPS ミステリー スリラー ホラー。
みんなのThis Is the Zodiac Speakingの評価・レビュー一覧

Arui Kashiwagi
2021年05月25日
犯人がマスメディアに挑戦状を送りつけたことで知られる、実在の殺人事件「ゾディアック事件」を題材にしたサスペンス。被害者たちは実名で登場する。
挑戦状を受け取った一人であるジャーナリストのロバートは、犯人と接触を試みるも不意打ちを受け昏倒。かねてより無茶ばかりしていたツケか職場にも妻にも見放され、いまやゾディアック事件だけが唯一の拠り所となった彼は、リハビリのための「セラピー」を通じて自分がこれまで集めた情報を、そして事件に執着する自分自身の心を見つめ直していく…
…という筋書きなのでジャンルはサイコサスペンスとかになるのかな?ホラーではない。
ゲーム的には、事件現場を模した心象風景内を歩き回って手掛かりを見つけ出す(という形で記憶を整理する)推理パートと現実パートの繰り返しで進行していく。
フルボイスで語られる主人公のモノローグをはじめ、ハードボイルドな雰囲気はなかなか悪くない。
ただ実在の未解決事件をなぞっているという制約があるためか、事件の全貌についてはっきりした説が提示されるわけではなく、推理の対象となるのは既に周知の事実となっている犯行手口の部分がメイン。なのでミステリとしての意外性には欠ける。
そこを補うべくもう一つのテーマとして主人公の心理がフォーカスされているわけだが、こちらはこちらで推理ゲームのコンセプトとはあまり噛み合っていないという問題があり、「え?これで終わり?」という投げっぱなし感が残る展開になってしまっている。題材や方向性は悪くなかったのにうまく料理しきれなかった感がある。
なおゲーム開始時に難易度を「探偵モード」と「シリアルキラーモード」の二種類から選ぶことができ、後者では犯人に見つかったらゲームオーバーというステルスアクション要素が導入される。
しかし前述の通り推理パートは本当の事件現場ではなく「セラピー」という設定なので、少なくともこれらのシーンで遭遇する犯人は主人公の想像上の存在であり、要は単なるお邪魔キャラである。
紙袋をかぶった凶悪犯が無人のマップ内を特に目的もなくうろちょろしている様はもはやシュールギャグの類。はっきり言って「なんだこいつ」としか思えず感情移入の妨げになるので、ストーリーに集中したい人は探偵モードを選んだ方がいいかもしれない。一応シリアルキラーモード固有の実績もあるが。
実績といえば、どうもフラグ管理が足りてないんじゃないかと思われる実績が一つ残っており、目下のところ100%解除した人はいないようなので注意。
その他たまにドアが引っかかって動けなくなったり(リロードすれば直る)、ボイスと字幕が一致してない箇所があったり、といった細かい問題が散見される。アップデートはこれまでに一度きりなので、修正は期待しない方がよさそうだ。ただそこまで致命的なものはないので、実績にさえこだわらないなら許容範囲か。
総合的に見ると、肝心のシナリオ面が惜しいので傑作とまではいえないものの、表現したいことは一通り盛り込んだと思われる内容で、十分なレベルには達している。
普段ミステリ系ゲームを遊ばない人にまで勧めるほどではないが、あまりゲーム化されていない題材を取り上げた作品なので、ジャンルやテーマのどれかに興味を持ったなら試してみる価値はあるだろう。ボリュームはテキストを全部読んで5~6時間程度。
[h2]ややネタバレ:エンディングについて[/h2]
全3種類。[spoiler]変化が発生するのは最終日のみ。たぶん現実パートで選んだ選択肢に応じてカルマ値が増減し、最後にまとめて判定されるシステム?
主人公の精神状態を投影してGood・Normal・Badに分かれるという感じの描写だったが、結局主人公が何を思ってこの結論に達したのかよくわからないという点ではどれも大差ない気がする。なのでわざわざ3回プレイして全部見るほどではなく、「最初に到達したエンディングが正史」くらいの気持ちで受け止めればいいかも…[/spoiler]。