







Flowers 秋篇
夏の暑さも和らいでいく中、周防白羽は愛するアミティエのパートナーが春に去った理由の謎を解明するまであと一歩のところまで来ている。
みんなのFlowers 秋篇の評価・レビュー一覧

𝐌𝐨𝐫𝐝𝐰𝐢𝐠
2024年01月13日
[h1][b]“FLOWERS” - Another Episode -[/b][/h1]
[h2][b]『 失われた半身をもとめて 』[/b][/h2][b]文:志水はつみ[/b]
——踏み石を音もなく濡らすさまを眺めまるで春の雨のようだな、と八代譲葉は思った。
秋雨だってのに春を思うなんて、と意図してシニカルな笑みを浮かべた。父の模倣である、皮肉をたたえた笑み。
雨宿リをしている聖堂の軒先から灰色に澱んだ雲を眺めていると
不意に数刻前、図書室で読み進めていたプラトンの《饗宴》が思い浮かんだ。
饗宴の中でも取り上げられることの多いアリストパネスの有名な演説のくだりだ。
かの吟遊詩人によれば大昔の神話世界にはЗ種類の人間がいた。男・女という括りでなく、
“男男”“男女”“女女”というЗ種類の人間によって成立していた、と。
だが、ある時神は彼等を全員"半分"に割ってしまった。その結果、世界は男と女だけになり、
裂かれた半身を求めて我々は彷徨っているのだと。
私はこのくだりを読んだ時、ある種の思い`が——
不意に視界が遮られ顔を上げる。と、美しい小麦の穂を連想させる髪、陶器のような真白い肌、
美しい青磁色の瞳を持つ親友——小御門ネリネが私へと傘を差してくれていたのだ。
「遲いから心配していたのよ」告ける彼女へ「嘘だと思うかもしれないけれど」と前置きをしてから
「きっとネリーが来てくれると思っていたよ」そう嘯いた。私の優しい親友は微笑み
ハンカチを手に取ると一步、歩を進めた。ただの一步だが目の前に創り物のような彼女が迫り、己の中の境界が危うくなる。
青磁色の瞳は凝っと私を見詰め——ハンカチで濡れた額を、類を、拭った。
彼女の纏うスズランの香りがまた一步境界を危うくさせる。ああ、私は——
「早く寮へ戻ってお風呂に入リましよう。風邪をひいてしまうわ」促され、聖堂の軒先から彼女の傘へ。
「僕が持つよ」親友の手から傘を取ると私たちは、音もなく降る秋時雨の中を共に行った。
ネリーとともに語る他愛のない会話。彼女との語らいは胸の深い部分で、私を幸福にしてくれる。
だが、そいつを気付かれては為らない。何故なら——
「……ねえ」不意に咎める視線を投げかけられ心にさざ波が立つ。
「譲葉は上手く誤魔化せていると思っているようだけれど……」そう前置きをし「私の方へばかリ傘を差し出して濡れてしまっているわ」と言った。
そして“こうすれば佳い”と私の腕をとり身体を寄せたのだ。
ネリーの肢体と私の身体が密着し分かち難く繋がる。そう——吟遊詩人の演説のくだりを読み強く思ったこと。
《彼女は私の半身なのだ》と。寮へと続く道を行きながら、私はニワトコの君へと祈る。
どうか変わらぬ幸せな日常を壊さぬようにと——。

Yzriha
2021年02月15日
「Flowers -Le volume sur automne-」改めてクリアしました!個人的に、秋編はFlowersシリーズの中で一番印象深いかもしれない。なぜなら、ストーリーの重さを感じていた。Trueエンドでネリネは信仰を諦めて譲葉を選んだ。
「ーー全てを捨てる決意をした」
「私は貴女と共に生きると決めたの。健やかなるときも、病めるときも」
「――信仰を捨て。学院を捨て。全てを捨てる。残ったのは私と貴女だけ」
ネリネが大病を快癒してから「臆病なライオン」になってしまったが、今回は決意を固めてしまった。ネリネにとっては譲葉の手を取るという事は、イコールこれまで培ってきた信仰に背く事になるということ。それは予想以外のプロットですが、より合理的なエンドです。みんな自己犠牲をしてたくさん傷ついて、それでも何かを選ぼうと藻掻いたという物語だからだ。