













Flowers 冬篇
冬は、Suoh をアミティエの失踪の理解に近づけ、フラワー ビジュアル ノベル シリーズの忘れられないフィナーレへと膨らみます。
みんなのFlowers 冬篇の評価・レビュー一覧

𝐌𝐨𝐫𝐝𝐰𝐢𝐠
2024年12月02日
[h1][b]“FLOWERS” - Another Episode -[/b][/h1]
[h2][b]『 最期の夜 』[/b][/h2][b]文:志水はつみ[/b]
——強い風がステンドグラスを叩くたびに身を竦ませてしまう。
いつも祈りへ来ている聖堂だというのに夜更けだというだけで空恐るしく感じる。
蝋燭の火が頼りなく辺りを照らし、柱の影や長椅子の死角に何者かが潜んでいるように思えた。神聖な場所である聖堂で恐れを抱くなんて不敬だとは分かっているけれど、風が建物を摇らし、ステンドグラスを叩く音を聽いていると物音ですら風音でなく、何か得体の知れない者の吐息のようにも思えた。
私は落ち着くために膝の上に手を置いた。そして指で膝がしらをリズムをとって叩く。
友人が何かに真劍に向き合おうとする時の癖だ。幾度か指を動かすと彼女になった気がして臆病な心が失せていった。そう、私の大切なアミティエの愛らしい癖。
恐れが失せた私は、仄暗い聖堂の中、瞳をつぶり彼女と出逢ったときを思う。
春、桜舞う木の下で彼女は私を惚けたように見上げていた。初めての出逢い。
そして、アミティエ同士となって——オリエンテーリングでは怪我をした私を見付け介抱してくれた。思えばあのときから心の中に友情以外の何かが芽生えていたのかもしれない。
互いに苦手なバレエの授業。教え合ったあの時間は掛け替えのないものだ。
そして、そして——
けれど、あの——聖母祭が私たちアミティエの仲を裂いてしまった。
私は……聖母役なんて望んでいなかったのに。聖母役に選ばれてからすべての歯車が狂ったかのように感じる。まるで何かに呪われたかのように。
頭を振り、邪な思いを消し去ろうとした。聖母様を悪しきもののように思うだなんて。
かぶりを振ったことで影が大きく摇れ、その影の中から何かが横切るのが視えた。
凝っと目を凝らし眺めると、それは青い蝶のようだった。蝶は何かを探すように頼りなく舞っていたけれど——壁に吸い込まれるようにふっと消えてしまった。何処かの陰に隱れただけだと、錯覚だと思うも、何故だか厭な予感が遠い雷雲のように胸の中に沸き起こった。
その予感は“彼女は来ないのでないか”という疑念を抱かせた。
ようやくきちんと話せる機会を得たのに。
私は天上の主へと祈る。
“どうか、愛しいアミティエともう一度だけ逢い語らうことをお赦しください”と。