











ヒラヒラヒヒル
『ヒラヒラヒヒル』は、架空の大正時代を舞台にしたビジュアルノベルです。この作品は、死者を生き返らせる恐ろしい病気、エアロデマに対する二人の主人公の闘いの物語を語ります。
みんなのヒラヒラヒヒルの評価・レビュー一覧

Onsen-Geisha
2024年10月11日
夏目漱石がお好きな方には、刺さると思います。
ただ「発言」が増長になりすぎており、
ヘミングウェイのような、ハードボイルド文体がお好きな方には、少々厳しいかもしれません。
物語は、ファンタジーでありながら社会的な出来事を扱っているがゆえに答えがないのですが、
しかし、それは読書好きの皆様が普段読んでいるものも、答えがないものが多いので
すんなり受け入れる事ができるかと思われます。
どう終わるか、よりも、その過程を楽しむことが出来るかどうかが、分岐点でしょう。
私は楽しむことが出来ました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

たこごめす
2024年09月26日
体験版からスタートし、本編全EDまでプレイ済みです。
ノベルゲームとしてはマルチエンディングではありますが、選択肢も少ないため、ゲーム性と言うよりはストーリー性に大きく振った作品です。
架空の病というフィクションの話ではありますが、歴史上元になった話もありますし、現代や未来にも当てはめて考えられるメッセージ性を伝えられる内容です。
医者と学生という2人の主人公視点で物語が進んでいきます。群像劇として濃密に入り交じっていくわけではなく、それぞれの主人公目線での話が進んでいくという側面が強いです。また、メッセージ性はありますが、作品として絶対こうだというものはなく、自分自身で考える余地を残しています。
ハッキリとした結末やクロスオーバーの様に2人の主人公のストーリーが行き交う事を望む方には向いてないかも知れません。
個人的には物語の面白さと、世界観。どちらも良く、とても楽しめました。そして、何よりも声優さんの演技、話し方だけでなく吐息混じりの表現1つとっても、この作品への没入感を深めてくれる素晴らしい要因でした。
良い作品に出逢えたと思っています。

今日も私は荒野を爆走する
2024年09月11日
良い作品でした。
展開も読者を飽きさせることなく、良い緩急でしたし、思わず感情移入してしまう場面も多くありました。
また、社会風刺的なメッセージもとても強く感じました。あくまで架空の疾患、「風爛病」をテーマにしてはいますが、ファンタジー的な要素は薄い病気で、私たちにとって比較的身近な「認知症」「統合失調症」などの精神的に異常をきたす病気と置き換えて考えてみることも容易でしょう。というか、思わず置き換えてしまいます。そして、こういった疾患が決して他人ごとではないと思わされます。
「風爛病」になった時、患者、親族、友人、それぞれの立場から、何を想い、何を感じるのか。
当事者のつもりで物語に入り込んでみると、きっと、あなたに少し違った視点をもたらしてくれると思います。

nekofukaketsu
2024年07月31日
この悪夢のような世界から一刻も早く抜け出したい思いと、この悲しくも優しい愛すべき人たちと少しでも長く一緒にいたい気持ちが交錯した。誠に不思議なゲームだと思う。
架空の病がテーマであるとは言え、このゲーム内で見られた偏見や差別は実在する。ルッキズムが先鋭化し醜形恐怖がはびこる現代において、その闇は一層深いと言えるかもしれない。
ただ、このゲームの本意は「救い」である。無理解に立ち向かう幾人かのキャラクターが奔走し、身近な、或いは見ず知らずのひひるを救おうとする姿こそが、このゲームを悲しくも温かい物語の箱庭に昇華させるのだ。
エンディングを見終わってしばしの放心の後、私の胸中は複雑だった。このゲームの中で私が生きていたとしたら、きっと無理解の側だったろう。主人公たちのように、尊い信念に突き動かされ愛するものを守る側には到底立てそうもない。
そんな私の中にも何かが残った。それはゲーム内のキャラクターたちに都合よく自分を重ねた末の安っぽい共感だったかもしれない。きっと、恐らくはそうなのだろう。
しかし、許されるなら私はそれを優しさと呼びたい。
もちろんそれを証明する術なんてものはどこにもありはしないのだが。
このゲームを最後までプレイした貴方の中に残る一雫は、一体どんな感情だろうか。

alt_way_yho
2024年07月11日
瀬戸口さんの作品はswan songから入り、ほぼすべて読ませていただいております。
今作も、心を締め上げられ続けながらすべてエンディングをコンプリートしました。
ベースになっているのは、明治時代から戦後まで連綿と続いた日本の私宅監置制度ですね。
私は日本の精神医療の歴史を読書で少し触った程度の者ですが、呉秀三と上記制度の歴史を知っていると本作のバックグラウンドがより深く理解できると思います。いろいろ語りたいことはあるのですが、非常にセンシティブな内容なのであえて記載しません。ファンタジーの皮を被ったリアルな小説を読んでいるようでした。ありがとうございました。
次回作も楽しみにしております。

keitarog
2024年07月07日
ゲームとしては選択肢も少ない単調な作業だが、近代日本のらい病や認知症の人への社会的な扱いがオマージュ?されており、「ひひる」はゲーム独自の設定であるが既視感のある内容になっている。ゲーム内では、「ひひる」が病気と認定され、その治療の黎明期と言う設定が内容が、2000年代「ボケ」が認知症と言葉を変えて、病気と認識され差別意識の改革を行っていたことが重なり、さらに認知症の家族介護の難しさ、理解の難しさをそのまま落とし込んだような「ひひる」への対応は、本人や周囲の心情などもリアリティがあり共感できるものがあった。選択肢は少なく、善悪では選びにくいもので考えさせられた。救いのある話は少ないが、一度遊んでみてほしい

nekog555
2024年06月10日
人として生きるとは何か、死ぬとは何かを深く考えさせられる良作である。
ゲームを通して何らかの知見に触れたい、心に残るような、考えさせられるようなゲームをしたいという方に強くお勧めする。
プレイ時間はゆっくり読んで、20時間ほど。
地の文も多く、後述するが扱っているテーマが重いため、週末などにじっくり腰を据えて読みたいという方向け。
過剰に感動させるような展開や演出といったエンタメ性は極力抑え、リアリティを以って作品を描こうというのは、文章・グラフィック・音楽全てから感じられた。
マルチエンドだが、エンド数は少なく分岐も少ない。
しかしどの分岐も、この人物ならこういう行動をするであろうなと思える納得のいくもの。
お遊び的なものや、おまけ要素的なものは一切ない。
もう少し色々な展開も見たかったが、そうするときっと蛇足となってしまうのだろう。
概要にあるとおりお話としては架空の病に向き合う人々の姿を描くものであり、良くも悪くも現実の病に置き換えて考えさせられてしまう。
無知ゆえの偏見や差別、当事者にしか分からない苦悩。
時代や場所、人が変われどそういったものは必ずあり、無くなることはない。
そういった経験がある方にはより深く刺さるはず。
不治の病がテーマである以上、どのエンドを迎えたとしてもハッピーエンドにはなりえない。
物語後半になればなるほど暗く陰鬱とした雰囲気も漂うが、不思議と結末が見えていても先が気になり、読む手が止まらない。
当然、読了感もややビターではある。
しかし、どこか晴れやかな気分にもさせてくれた。
これは、シナリオライターの技量が高いためあろう。
同作者の他の作品にもぜひ触れてみたいと思えた。
登場人物の描写はどれも非常に人間臭く、魅力に溢れ、素晴らしい。
声優の好演によってその魅力が十二分に引き出されている。
BGMは場面に即したもので、特に強く印象に残るものはなかったが過不足なく良かった。
グラフィックに関しては、立ち絵に多少のバリエーションはあるものの目パチ口パクなどはなく、最初は少々地味に感じた。
しかし読み進めるにつれ、世界観と合致した独特な描写と塗りのグラフィックと、ビジュアル”ノベル”という特性上、下手なアニメーションは無い方がむしろ良いと感じられた。
スチルもやや少なく感じたが、やはり文章が主体のゲームなので、これで適量なのかもしれない。
システム周りは不足なく快適。
しかし私の環境ではゲームパッドが使えなかったので、対応してくれていたらもっと良かった。
現在、定価で3000円弱ですが、それに見合う価値は十二分にある、とても素晴らしい作品でした。

shizukuishi
2024年05月23日
[h2]”よく知っていれば不必要に恐れたり憎んだりすることもなくなるし共感もできる”[/h2]
精神障害当事者の自分と「ひひる」を重ね合わせて物語を読み切った。
架空の大正時代で、死んだ人間が生き返る「風爛症」という病気と闘う医療従事者、その家族の物語
風爛症は発症すると見た目は動く死体のようで狂ったような言動を繰り返したり暴れるようになり、また継続的に投薬を続けないと体がそれこそゾンビのように肉体が崩れてしまう…というような病気
患者は「ひひる」と呼ばれ差別の対象になったりしている
一見するとファンタジーのようだが物語中の描写は認知症患者や統合失調症患者のような描写をされている
現実の明治~昭和はじめあたりまで精神障碍者を自宅の土蔵や織に閉じ込めておく…といった「私宅監置」という実際にあった法律とほぼ同じ様な描写がされている
「ひひる」は適切な治療を受ければ多少の介助が必要でも社会生活を送る事が可能な場合もあるが適切な治療がされていないと狂人のように暴れたり妄想の世界から帰ってこれなくなる
これは現在の精神障碍者でも全く同じ事が言えると思う
当事者の自分も現在は社会復帰に向けてあと一歩の所まで来ているがそれでも調子が悪い日は自分の頭を殴ったり泣いたり好きなゲームもできなくなる程落ち込んだりする
「ひひる」だから犯罪を犯す「ひひる」は危険だから社会から隔離しろ と劇中で差別されているが、
現実の現代社会でも自分たちのような「ひひる」には同じ感じなのだろう
自分も障碍を得るまでは同じような感覚だった
ヘッダーの一文は主人公の医療従事者の台詞であるが、精神科に掛かった時言われた
ただの病気なのだと、薬を飲みながら社会生活を送っている人も多いのだと言われたのを思い出す
昨今の不必要に社会的弱者として配慮を求める流れは好きじゃないしそんなに特別扱いされたくも同情されたくもない、自分はひひるとしてそう感じているのかもしれない。

r-hayate
2024年05月11日
発売のニュースを見たときに、これは要チェックだと思って気にかけていましたが、
半年ほど様子を見て評価がとても良いので購入しました。
とにかく文章が丁寧に練られているので、架空の病気を題材にした話ですが、
ゲームを勧めていくと現実にそういう病気があったのではないかと錯覚するような
感覚になり、物語にぐいぐい引き込まれます。
最近はフルボイスのADVが増えてきましたが、
本作はすべてのキャラクターのセリフや声がとても良かったです。
最近のADVの中では割と短めかもしれませんが、内容が濃くて満足度は高かったです。
EXTRAの内容がすべて埋まったので、多分すべてのルートを見たと思うのですが、
その上で一つ気になったのは、このゲームの宣伝用画像のタイトルバックに出てくる
泣いている女性の画像はゲーム中いつ出てくるのか、この女性は誰なのか、と
密かに楽しみにしていたのですが、EXTRAのCG集には入っておらず、
結局最後までこの画像を見ることがなく、非常に残念でした。
(単に私がまだ見られていないだけなら良いのですが…)
また、一通りプレイしてみて思うところとしては、本作は何箇所か選択を迫られる
ポイントがあって物語が分岐しますが、残念なことにトロフィーが設定されていないので
EXTRAの中の音楽とCGがすべて埋まっていって、全部が表示されるようになったら
おそらくこれですべての内容をみたんだろうな、とは思うのですが、選択肢のすべての
組み合わせは試していないはずなので、まだ読んでいない文章があるのかも…と
大変気に入った作品なので、できればすべての文章を余すことなく読みたいと思うものの、
これ以上プレイしても見てない文章は無いのかもと思うとこれ以上トライする気にもなれず
モヤモヤしています。
もし可能なら、あなたはすべての内容を読んだよ!とプレイヤー自身が確認できる
機能の追加を、できることなら今後バージョンアップでお願いしたいです。
トロフィーが用意されれば一番嬉しいのですが、トロフィーは用意するのが
けっこう大変だと聞いたことがあるので、簡易的な形で全然よいので
実装されると嬉しいです。実装されたら改めてプレイしたいですね。

うわああああああああ
2024年05月06日
私は途中まで、このゲームはおすすめできないなと考えながらプレイしていた。
二人の主人公のうち、一人が好きになれなかったからだ。
話が詰まらない。苦しみ、精神が疲弊している人に正論パンチをぶつけてくる。
いうなれば正義のヒーローが「悪党が恐ろしいのはわかるけど、脅しに屈しちゃだめだよ」
なんてことを言ってくるのである。「こっちはひ弱な人間なんだよ」と言いたくなる。
でもクリアした今は、みなにお勧めしたくてこうしてレビューしている。
このゲームは、前情報を入れない方が楽しめるゲームです。おすすめです。

catpillow
2024年05月03日
全ルート達成したのでレビュー刷新
とは言え評価は変わらず、ギリギリのギリで好評価
差別やいじめ、肉体的や精神的なハンデを背負った人々に対して、
我々、或いは身内がどのように接していくべきか を問うた、非常に重いテーマ
この難攻不落のテーマに手を出す作品は多くあるが、概ね只の綺麗ごとで終わるのに対し、
この作品は攻めるだけ攻めた …が、攻めた先には何も無かった やはり難攻不落である
問題は、風爛症という架空の病に、これらの問題を全て詰め込み過ぎた点にある
現代的なテーマであるにも関わらず、ファンタジー色が強いものになってしまった
この混沌とした架空の病が常に頭の片隅にあり、いまいち心が揺さぶられない
ファンタジーをやりたいのか、リアルを追及したいのかどっちつかずで感動どころではなかった
症状が進行すると肉体が崩壊するが、薬で進行はある程度止められる
ファンタジーである 魔法である
ビジュアルノベルだけあって、ビジュアル的なインパクトを意識しすぎたか
なので演出なのか伏線なのかよく判らない表現も多い
文章も読みやすいのだが、量が多く冗長で、処理が追い付かない
各主人公のエンディングも体面上はハッピーエンドを装ってはいるものの
風爛症の根本的な問題は解決せずに終わってしまう
そりゃそうだ、これらの人間問題など解決する術など無いのだから
なので難攻不落なのである 軽々に手を出して良いものではない
法や環境が整備されればとは言うが、やりすぎると逆に問題を抱えた人間が有利な社会になってしまう
これは現実、実際そうなりつつある
感動できよう場面も、手法としては王道
明子さんや朝さんにもスポットを当て、もう少し本人が頑張る描写が欲しかった
実際は頑張ってはいるのだが、あまり見えてこないのが残念
あと、テキストが多いのは良いのだが、千種先生は喋りすぎ
風爛症の解説係的な立ち位置なのだろうが、医者というよりナレーターである
この手のゲームで初めて音声スキップしてしまった やたら話が冗長である
良い作品というものは、読了した後でも
「この世界にもっと浸っていたい」「先が読みたい」と願うものだが、
これに関してはどうせ解決する問題でもないし、冗長になるくらいならもういいかな
という感じだ
この手のミドル級ノベルは、極力舞台を狭く、できるだけ登場人物を少なく絞った方が
伝えたいテーマの解像度も上がり、感情移入もできるのだが...
広げるだけ広げて 結局はぶん投げで終わるのはもったいない

kuro_indar
2024年05月01日
ふと「人が死ぬとはなんなのか?」と考えた時、「心臓が止まってたら死だよ」とか「脳が動かなくなったなら死んでるよ」と色々思いつくことはあります。
現代日本では、人の死は医師が「心停止」「呼吸停止」「瞳孔拡大」の3つの徴候を確認することで死亡が判定されるそうです。脳だけが機能を停止している「脳死」は上記の死亡の判定に含まれていません。我が国は臓器移植を前提とした時のみ、脳死の前に本人が予め同意していたこと・家族の同意があることという条件で脳死判定がなされるようですが、国によっては脳死は人の死とされることもあるそうです。
それでは、「心臓も脳も止まって明確に死んでいたけれど、なんだかわからないが2日後くらいには蘇って今まで通り動いている人」は果たして生きているといえるのでしょうか?周囲の人々はその蘇生者を同様に”人間”として受け止められるのでしょうか?ましてや大正の時代に?
ヒラヒラヒヒルの世界に存在する風爛症はこの「人の死」にとことん向き合う物語です。ファンタジー設定は風爛症の存在のみで、それ以外はとにかく真面目一辺倒です。テーマがテーマなだけにシリアスな展開が多いですが、ある程度読み進めるとこの世界にどっぷり浸かれますので、体力のある時に腰を据えてやるのをオススメします。
冒頭のようなことをぼんやり考えていた自分はとにかく興味深い気持ちで夢中になってプレイしました。同じような覚えがあるのであれば、いったん体験版でこの世界を覗いてみるのが良いと思います。
ちなみに自分のイチオシは野村兄妹です。その在り方にいのちの輝きを感じられて非常によい。

USKuraii
2024年04月10日
「風爛症」がどうのこうのって書くとプレイしたことが無い人にはさっぱりだろうけど。
これ、仮死状態になって生き返るって設定あるけどそこにあんまり意味は無く、わかりやすく言うと体の崩れる認知症みたいなものよね。
それに子供だろうが大人だろうが突然理由も無く罹ってしまう。
さぁ周りの人どうする?社会はどうなる?って物語。
多くの人がレビューしてるけど、原因は●●●のウイルス!とか悪霊がっ!とかそんなん一切なし。
大正時代(一応架空らしい)ってとこがミソなのか、出てくる人がとてもとても善い人間ばかりなのに嘘くささが無い。いや、文章力なのか。
善い人達が精一杯もがきながら生きている姿にゲームながら心を打たれる。
同作家のBLACKSHEEPTOWNも素晴らしかった。次回作も大いに期待。

悠宇
2024年03月27日
誰しも一人や二人、生き返って欲しい人がいるのではないだろうか。
けれど、その蘇った者の心が、少しばかり壊れていたら?
この物語は、あの名作「SWAN SONG」の瀬戸口廉也さんがシナリオを手掛けている。
それだけでかなり期待が高まっていたが、本作はそれに十分応えられるクオリティの傑作だった。
一度仮死状態に陥いってから、蘇生する。
それが、死んだ人間が蘇る病――「風爛症」である。
そんな「風爛症」にかかった人は「ヒヒル」と呼ばれたが、彼らの処遇は時代の制度が追いついておらず、凄惨で過酷な状況においやられていた。ヒヒルたちは、知性や記憶・認識力が衰え、コミュニケーションが困難となるばかりか、肉体も腐敗していく。そんな彼らと、人々はどう向き合って生きていけばいいのか。
この物語には「風爛症」を発症する原因を究明するミステリ展開も、正気を失ったヒヒルたちが惨劇を起こすホラー展開もない。ただただ、心が少し壊れて生き返ってしまった者と、彼らを取り巻く家族や医師たちの、苦悩と葛藤、そして、愛が丁寧に描かれている。ヒヒルたちは身体が腐り落ちて欠損する、異臭を放つなど、ゾンビとも思しき存在で、この作品には多少のグロテスクなイラスト表現があるが、淡々としたタッチのイラストで、とくに恐怖や嫌悪感は抱かなかった。彼らは死者でるが、生者でもあり、異変はあくまで病気のせいなのだ。文章は読みやすく、時代設定にふさわしい描写で大正の空気が感じられ、登場人物は迫真のフルボイスで語り掛けてくる。確かにあったものが失われ、終わりに向かおうとも、それでも、真っ当に向き合って生きようとする登場人物たちに、きっとあなたは胸を打たれることだろう。
何もこの世界だけの話ではなく、私たちの恋人や家族、身近な存在の心が徐々に壊れていくとしたら。
綺麗ごとだけでは済ませられない現実が、そこにあるのかもしれない。
面白そうと思った方は、是非プレイをお勧めする。